LOGIN急いで帰路につくと、レベルアップによる恩恵は凄まじかった。脚力のみならず、心肺機能や動体視力までもが強化されており、飛ぶような速さで険しい山道を駆け抜ける。結局、馬車で数日かかるはずの道のりを、わずか半日で踏破して街へと戻ってこれた。
そのままギルドへ直行し、報告のために受付の列に並ぶ。すると、カウンターの奥で忙しなく動いていたニーナが、列の中にいるユウヤの姿をいち早く見つけ出した。
彼女はぱっと顔を輝かせ、丁寧にお辞儀をすると、弾むような足取りで駆け寄ってきた。
「ユウヤ様、なにか問題でしょうか? 途中で引き返してこられたのですか?」
ニーナは眉をひそめ、縋るような眼差しで問いかけてきた。よほど重大なトラブルがあったのだと思い込んだのか、返事を聞く間もなくユウヤの手を引き、足早に応接室へと連れ込んだ。
重厚な扉が閉まり、二人きりになると、彼女は身を乗り出すようにしてユウヤを見つめた。
「どのような問題でしょう? わたくしにできることがあれば、何でもご協力いたしますよ」
必死に力になろうとしてくれる彼女のひたむきな姿勢に、ユウヤは苦笑いを浮かべた。
「ん? 問題はないよ。依頼が終わったから帰ってきたんだけど……」
「へ……? は、はい? えっと……最短でも、やっと山に着いた頃だと思いますけれど……?」
ニーナは目をパチパチさせ、信じられないものを見るように首を傾げた。彼女の常識では、今この瞬間にユウヤが目の前にいること自体が、魔法か何かを見せられているような感覚なのだろう。
「あはは、ちょっと急いだんだ。ほら、これ。村長のサインももらってきたよ」
ユウヤが差し出した依頼書を、ニーナは震える指先で受け取った。しかし、そこに記された数字に目を落とした瞬間、彼女の時が止まった。
「……えっ? あ、あの……ユウヤ様? この……討伐数の欄……桁、間違えていらっしゃいませんか……?」
ニーナの透き通った瞳が、三万体というあり得ない数字を捉えて激しく揺れていた。
俺から手渡された依頼書を凝視したまま、ニーナは石像のように固まってしまった。まあ、書き換えも誤魔化しもきかないこの討伐数を見れば、無理もない反応だとは思うけれど。
「あ、あの……何ですか、これ……。種類の数も討伐数もおかしいです。いったい……どちらへ行かれたのですか? 討伐する場所を間違えてませんか? S級のモンスターが多数混ざっていますし……。SS級のモンスターも数十体混ざってますよっ!」
ニーナは上気した顔で詰め寄ってきた。その細い指先は、紙面に並んだ信じがたい記録をなぞりながら小刻みに震えている。彼女の知る「村の封鎖」という依頼の範疇を、この数字は遥かに超越し、伝説の戦場のような様相を呈していた。
「村長さんに、場所が合ってるかの確認もしましたよ」
「えぇ。は、はい……お名前もサインも、依頼を受けた書類の物と同じなので間違いはないですね……。ですが……移動速度がおかしいです。それに、この討伐数やモンスターの種類もおかしいですよっ!」
ニーナは困惑と驚愕が入り混じった複雑な表情で、何度も書類と俺の顔を交互に見比べた。三ヶ月も封鎖されていた村に半日で辿り着き、軍隊でも壊滅しかねない数の上位種を一人で屠って戻ってくる。そんな人知を超えた報告を、受付嬢としての理性が必死に拒絶しているようだった。
「そう言われても……殲滅って依頼だったし。ニーナの依頼だったから、頑張って急いでモンスターを倒してきたのにな~……ニーナに、そんな風に言われちゃうのかぁ……」
少しだけ悪戯っぽく、残念そうに肩を落としてみせる。
「…………っ!」
その言葉が耳に届いた瞬間、ニーナの顔は耳の付け根まで真っ赤に染まった。 自分のために無理をしてくれたのだと、そう真っ直ぐに伝えられた衝撃。彼女は何かを言いかけようとして口を金魚のようにパクパクとさせ、そのまま俯いて固まってしまった。
応接室の静寂の中に、彼女の激しい鼓動がこちらまで聞こえてきそうなほど、甘酸っぱくも気まずい空気が流れる。
「あ、あの……その……ありがとうございます……」
消え入るような声で、彼女はスカートの裾をぎゅっと握りしめながら、床を見つめたままそう呟いた。
「なにか不味いかな? ニーナが、困ってそうに見えるんだけど?」
ユウヤが顔を覗き込むようにして尋ねると、ニーナは弾かれたように顔を上げ、激しく首を振った。
「不味いことはありません……驚いただけです。それに、このような数字を見るのが初めてで、少し……興奮してしまいました」
「え? そうなの?」
えっと……また、やっちゃったよね。この反応。知ってたけどさ。隠蔽や書き換えができれば良いんだけど……下手に誤魔化してバレたら、信用がなくなる方がコワイし嫌だ。
♢帝都への旅路と予期せぬ吉報「それじゃ、帝都に向かうか……」 俺がリビングの静寂を破るようにそう告げると、向かいのソファに深く腰掛けていたシャルが、驚きと緊張がないまぜになった表情を見せた。淡いピンク色のドレスをふわりと広げ、お気に入りの場所に座る彼女は、いつもなら明るく元気な笑顔を振りまいているのだが、今はその淡いフワッとした金髪を揺らし、不安げに俺を見つめている。「て、帝都ですかぁ……?」「ん? シャルも緊張するのか?」「はい。帝都ですよ……宮殿ですよ? わたし……宮殿は苦手です」 シャルは甘えるように体を縮め、ぶるぶると小刻みに震わせた。同じ王族という立場でありながら、少しドジっ子で自由奔放な彼女にとって、他国の、それも厳格な礼式が重んじられる帝国の宮殿は、想像するだけで息が詰まる場所に違いない。そんなシャルの様子を見て、俺の隣に座っていたミリアが、不満げに頬をぷくっと膨らませた。「なんですの……その宮殿は凶悪というイメージは……そんな恐ろしい場所では、ありませんわっ」 ミリアはますます頬を膨らませ、透き通るような青い瞳を尖らせて反論した。淡い金髪が、彼女の憤りに合わせてふわりと揺れる。 ああ、なんとなく分かる気がする。それって宮殿じゃなくても同じだろう。実際、数人の王様が殺されかけてたしな……。「ユウヤ様。宮殿は、そんなに恐ろしいところではありませんからねっ!」 隣に座るミリアが、俺の腕をきゅっと抱きしめ、顔を覗き込むようにして必死に訴えかけてきた。彼女にとって、そこはただの温かな実家なのだ。 これだけ長く一緒に行動しているんだ、ミリアが大切に思っている場所がどんなところか、何となくは理解しているつもりだ。それにシャルだって、もう俺の嫁になっているんだし、俺が守るんだから安全性に問題はないだろう。 あ、でも……シャルはなぁ。
「お前! 一体何をしたんだ? 俺のファイアボールを受けて無事でいるとは……」 リーダー格の男は、宙に浮いたまま顔を引きつらせ、震える指先をこちらに向けて叫んだ。「もしかして……今のが攻撃だったのか?」 俺が心底不思議そうに問い返すと、男は屈辱に顔を赤く染め、必死に虚勢を張る。「うるさいぞ! そろそろ……師匠が来てくれる……。師匠の攻撃を受けてみれば、俺たちの凄さが嫌というほど分かるさ!」 師匠、か。このレベルの「浮いているだけ」の連中を育てた奴がどんなものか、逆に興味が湧いてくる。「どうした? 俺を待っているのか? 良い獲物でも見つけてきたのか?」 路地の奥から、低くよく通る声が響いた。現れたのは、中年の魔術師風の格好をした男だった。手にしているのは、一際大きな魔石が埋め込まれた不気味な杖。その出で立ちは確かにそれらしく見えるが、男が放つ言葉は、到底高潔な魔導士のそれではない。「……こいつが師匠と呼ばれる男か」 師匠と呼ばれるくらいだから、弟子たちよりはマシな実力があるのだろう。だが、「良い獲物」という言葉からは、彼らが日常的に通行人を襲い、略奪を繰り返している事実が透けて見える。 俺の隣で、ミリアが嫌悪感を隠そうともせず、透き通るような青い瞳を冷たく細めた。「ユウヤ様、あの方からは非常に下品な臭いがいたしますわ。このような者が街を闊歩しているなんて、教育の必要がありそうですわね」 ミリアの静かな怒りが再燃し始めるのを感じながら、俺は新しく現れた「師匠」とやらの力量を測るべく、静かに身構えた。「師匠! こいつら、俺たちの魔法が効きません! 普通の奴じゃないです!」 弟子たちが必死に訴えかけるが、その間も彼らはぷかぷかと中途半端に浮いたままだ。見れば見るほど、その姿は滑稽でしかない。浮いていると踏ん張りが利かないから、一撃受ければ木の葉のように吹っ飛ぶだろうし、何よりそのドヤ顔が…&hell
その光景を眺めていた騎士団長が、憑き物が落ちたような表情で俺に向き直った。「この騎士団はあなたのおかげで、今日を境に良い方向へ向かいそうだ。ありがとう!」 騎士団長は、今日何度目かになる深い一礼を俺に捧げた。その後、彼は生き残った団員たち全員に聞こえるように、朗々とした声で宣言した。これからは門地や階級に関わらず、等しく実力と規律によって評価し、上級貴族であっても例外は認めないと。 静まり返った戦場に、かつての腐敗した空気を切り裂くような、新しい騎士団の胎動が響いていた。♢ミリアとの遭遇 王城へ無事に帰還した後、騎士団は血相を変えて国王への報告へと向かっていった。重々しい空気の隊列を見送りながら、俺は人混みに紛れてこっそりと抜け出した。せっかく訪れた初めての街だ。このまま堅苦しい城の中に閉じこもっているなんて、俺の性分には合わない。 鼻歌混じりに城壁の出入り口へと足を向けると、そこにはなぜか、見慣れた装備に身を包んだ護衛の集団が整然と待ち構えていた。「ユウヤ様、どちらへ?」 鈴を転がすような、それでいてどこか逃げ場を許さない響きを含んだ可愛い声が鼓膜を叩く。あ……このタイミング、この声。バレたか。「あ~、当然……初めての街だし、少しばかり散策をしようと思って」 俺は冷や汗を拭いながら、努めて自然な笑顔で振り返った。「へえ~そうですか。わたしを置いて、ですか?」 武装した護衛たちの間を割って、可愛らしく頬をぷっくりと膨らませたミリアが姿を現した。腰に手を当て、ジト目で見つめてくる彼女の背後には、まるで「逃がしませんよ」と言わんばかりの威圧感が漂っている。 騎士団の精鋭たちを黙らせた俺の足取りも、彼女のこの表情の前では、たった一歩も前に進めることはできなかった。「ひどいですっ。ユウヤ様! 最近いつも置いてかれて寂しいですっ」 ミリアは上目遣いに俺を睨みながら、いっそう頬を膨らませた。その仕草には年相応の幼さと、隠しきれない独占欲が滲んでいる。「
極限まで抑えたつもりだったが、それでも俺の瞳の奥に宿る「捕食者」の光を隠すことはできなかったらしい。 副団長の顔からは一瞬で血の気が失せ、土気色へと変わった。ガチガチと歯の根が合わない音が聞こえ、彼は支えを失った人形のように、その場に腰を抜かして座り込んだ。 俺を見上げる彼の瞳は、もはや人間を見ているものではない。深淵の底から這い出してきたバケモノを正視してしまったかのように、ただ絶望的な恐怖に支配され、激しく震え続けていた。「おいおい……お前は上級貴族様なんだろ? 下級貴族でもない、ただの元平民のゴミ以下の奴の前に座り込んで、いったい何をしてるんだ? その首でも、俺に差し出す気になったのか?」 俺は、無造作に剣を鞘から引き抜いた。キィィン、と硬質な金属音が戦場に響き、その切っ先を、腰を抜かして震える副団長の鼻先へと突き立てる。剣に宿る冷徹な殺気が、男の頬をかすめる。彼は喉を鳴らし、あまりの恐怖に瞬きすら忘れたまま、ただ銀色に輝く死の象徴を凝視していた。「いえ……その、こだわりは……捨て去ります……。心を入れ替え、現場では差別なく接するようにいたします……」 副団長は、震える声で絞り出した。その瞳からは、先ほどまでの傲慢な輝きは完全に消え失せ、代わりに深い悔悟と、それ以上に強い生存本能が支配していた。「だそうだな、その方が賢明だと思うがな。なあ? 団長も聞いたろ?」 俺は剣先を突きつけたまま、横に立つ騎士団長へと視線を投げかけた。俺の放つ冷ややかな圧迫感に、歴戦の猛者であるはずの団長もわずかに頬をこわばらせ、額に一筋の汗を流している。「あ、ああ……聞いた。そろそろ剣を収めてくれないだろうか……副団長が怯えている」 騎士団長の声には、懇願に近い響きが混じっていた。俺はふん、と鼻で笑うと、吸い込まれるような滑らかさで剣を鞘に収めた。カチリ、という静かな音が戦場に響くと、張り詰めていた空気がわずかに緩む。
「へえ……。万全なら、俺に勝てるってわけだ? 面白いな、それ……」 俺は冷笑を浮かべ、男の目の前に転がっている、先ほど叩き折った剣の残骸を爪先で小突いた。♢副団長への「再教育」「そう言うと思って、治癒薬を用意してある」 俺は懐から小瓶を取り出し、男の目の前に放り投げた。乾いた音を立てて転がったそれを、男は震える手で、泥にまみれながら拾い上げる。「そ、そうか……」「その馬鹿に一つ忠告しておいてやる。上級貴族であろうが、現場に出れば下級貴族でも上官であれば、上官に従わなければ、今回の様にモンスターにボコボコにされて死ぬことになるぞ」 突き放すような俺の言葉に、男は顔を歪め、治癒薬の栓を抜こうと指先を震わせた。「ああ……あのモンスターを倒した者に戦いを挑むなんてどうかしていた……下級貴族にひどい言われようで頭に来てしまった……クソッ!! 敵と戦い死ぬのではなく、こんなことで俺は死ぬのか……」 男は呪詛を吐くように呟く。逃げ道を失い、追い詰められ、その横顔には今更ながらに自身の招いた事態の重さが影を落としている。それでも、自分が否定された屈辱だけは拭いきれないのか、瞳の奥には昏い逆恨みの色が燻っていた。 男が覚悟を決めたように治癒薬を飲み干すと、薬液が喉を通り抜ける。即効性の極上品だったそれは、瞬時にして傷口を塞ぎ、折れた骨を繋ぎ合わせ、青ざめていた肌に生気を戻していく。 数秒前まで死を待つのみだった体が、元通りに回復した。 俺は地面を蹴るようにして立ち上がる男を見据え、抜き放った剣の重みを掌に感じていた。さあ、言い訳はすべて潰した。万全の状態で、絶望を味あわせてやるとしよう。「おおお! 体が軽く、傷も……治っている!」 男は自らの両手を見つめ、信じられないといった様子で何度も握りしめた。鎧の下でひしゃげていた肋骨も
階級社会において、相手の背景を読み違えることは死を意味する。この男は今、その自覚もないまま、自ら破滅の引き金に指をかけていた。「ゴミ、ね……。そのゴミに守られないと、全滅してたのはどこのどいつだったかな」 俺はため息混じりに、わずかに魔力を解放した。足元の小石が震え、空気が重く沈み込む。向けられた剣の先が、男の恐怖を代弁するように小刻みに震え始めた。 血を吐くような怒声を上げて、中隊長と呼ばれた男が躍りかかってきた。騎士団長が顔を強張らせて制止の声を上げるが、逆上した男の耳には届かない。 俺は「収納」から一振りの木刀を取り出した。それ自体は何の変哲もない訓練用だが、表面に高密度のバリアを極薄く、強固に纏わせる。物理的な破壊耐性を限界まで引き上げた木刀は、今やどんな名剣をも粉砕する硬度を持っていた。 直後、戦場に響いたのは鋼を叩き潰す鈍い音だった。一撃、二撃。無造作に振り抜いた木刀が、男の着ていた豪華な装飾鎧を紙細工のようにひしゃげさせていく。必死に振るわれる男の剣を、俺は紙一重でかわすことすらしない。バリアに守られた木刀でそのまま剣を叩き折り、男の胴体、腕、足を容赦なく打ち据えた。 鎧は原形を留めぬほどにぐちゃぐちゃになり、中隊長だった男は、もはや悲鳴を上げる気力もなくふらふらと膝を突く。その顔面は恐怖と苦痛に歪み、先ほどの傲慢さは微塵も残っていない。 俺は手に持っていた木刀を静かに消し、代わりに冷たく光る真剣を握り直した。横たわる男の腕、その関節を狙って剣先を突き立てる。じりじりと、体重をかけて鎧の隙間を抉り、肉へと刺し込んでいった。「自分たちの無能を棚に上げて、本当のことを言われて反省もせずに腹を立て、本当のことを言ってきた者を殺そうとするなんて、責任のある立場の者のすることなのか?」 俺の静かな問いに、男は口から泡を吹きながら首を横に振る。「王国幹部が護衛をつけるような人物に、騎士団で役職に就いている奴が、護衛対象に剣を向けて殺そうとして良いのか? まあ、それはもういいか、どうせお前は死ぬんだしな……。剣を抜き、剣を向けてきた時に殺し合いを
剣を構えると、二頭のオオカミが地を這うような低い唸り声を上げ、牙を剥いて同時に襲いかかってきた。ユウヤは冷徹なまでに冷静な動作で、バリアを纏わせた剣を一閃、薙ぎ払うように振るった。 空気を切り裂く鋭い音と共に、勢い余って三頭の首が空中に舞い、鮮血が霧の中にどす黒い花を咲かせる。仲間が一瞬で屠られた光景を目の当たりにし、残りの三頭は本能的な恐怖に駆られたのか、じりじりと後退を始めた。「逃がすと面倒だしな」 ユウヤは逃走を許さず、足元の地面を蹴った。縮地に近い速度で肉薄し、バリアを刃として振るう。抵抗する間もなく、残りの三頭もまた、その首を地面に落とした。「うぅ~ん……見た目だけで手応
「それじゃ~行ってくるよ」 ユウヤは軽やかな足取りで椅子から立ち上がり、応接室の扉へと手をかけた。「は、はい……お気を付けて……行ってらっしゃいませ!」 背中越しに聞こえてきたニーナの声は、少し震えていたが、確かなぬくもりを伴ってユウヤを送り出してくれた。 ギルドを後にしたユウヤは、山を抜ける冷たい風の感触を肌に感じながら、目指すべき孤立した村へと一歩を踏み出した。 ギルドを後にしようと振り返ると、ニーナが扉の陰から控えめに、けれど名残惜しそうに小さく手を振っていた。その愛らしい仕草に一度だけ頷き返し、ユウヤはそのまま村へと直行することにした。 話によれば、目的地は馬車で二日は掛
「あっ。プレゼントした、リボン付けてくれてるんだ!? すごく似合ってるよ」 ユウヤが、彼女の髪を飾る鮮やかなリボンに気づき、素直な称賛を口にすると、彼女は弾かれたように肩を震わせた。「ひゃぃ。ありがとうございますっ……」 ニーナは裏返った声を出し、耳の付け根まで真っ赤に染めて、自身の髪飾りにそっと触れた。 ん? なんか緊張でもしている? っていうか……接客のプロで人馴れしてる受付嬢が緊張? 今のは……うん。可愛かったな。「俺に、何か用事だった?」 ユウヤが改めて尋ねると、ニーナは仕事モードに切り替えようと何度も深呼吸を繰り返し、手元の資料を広げた。「えっと……ですね。A~S級の
「面白い依頼ですか……?」 ミリアの澄んだ瞳が、さらに大きな疑問符を浮かべる。彼女にとって、今や「皇子」とも呼ばれる立場になったユウヤが、泥臭い冒険者の溜まり場に自ら足を運ぶ理由がすぐには理解できないようだった。「そうですわ! ユウヤ様、もし戦いが必要な依頼であれば、わたくしが……」 ミリアが守護欲に溢れた表情で身を乗り出そうとしたが、ユウヤはそれを苦笑いで制した。「大丈夫だって。ただの様子見だよ。それに、こういうところから世の中の動きが見えることもあるしね」 ユウヤは、慌ただしく立ち働く王城の兵士たちを背に、どこか懐かしい場所へ向かうような足取りでギルドへの道を歩き出した。背後か







